株式会社カウリスの設立趣意

株式会社カウリスの設立趣意

創業から1年ほど経ち、組織体制が少しずつ整い、サービスをお客様に安心してお届けできる状況が確立されてきました。この機会に創業に至った背景を振り返り、日本ではまだそれほど多くないセキュリティスタートアップの1社として、どのようなことを考えているのかなどをしたためてみたいと思います。

我々が掲げるミッションは、日本のサービス事業者とその利用者を情報漏洩からお守りすることです。

従来、両者をつなぐ接点として、リアル店舗やWebブラウザが主流であったのが大きく多様化しています。普及が一巡したスマートフォンやタブレットはもちろんのこと、そこで起動するネイティブアプリの機能も複雑に。さらにはウェアラブルデバイスや、IoTの発展など、端末が小型化・高性能化することでサービス事業者と利用者の新たなタッチポイントが多数創出されました。また、この勢いはさらに加速し、2020年にはインターネットに接続されるデバイスが500億台[1]と、世界人口の8倍の数という時代がきます。

これらの動きに拍車をかけるのがFinTech。昨年、日本中のメディアで取り上げられた金融テクノロジーの進化により世界中で決済手段の多様化が進んでいます。世界全体でみると、今まで主流であったVISAやマスターカードといったクレジットカード決済に替わり、PayPalやAlipayをはじめとするeWallets(電子財布)がE-コマース上においてもっとも利用される決済手段となりました。その決済額は、2016年の時点で7,220億米ドル(日本円換算で約80兆円)、E-コマース全体における決済額の約30%を占めるまでになりました[2]。

両事象から言えるのは、インターネットの“入口”と“出口”、この両者のトラフィック数が圧倒的に増加するということです。しかしその裏では、正規のユーザーだけではなく不正なトラフィックも急増しており、だからこそ今セキュリティの対策が求められているのです。

英Oxford BioChronometrics社が2015年に発表したレポート[3]では、アメリカにおける主要媒体の広告クリックの中で「正規のユーザーによるものが10%程度まで落ちている」という衝撃の研究結果が。近年では、悪意のあるユーザーをはじめ、コンピューターによる自動応答プログラムであるボット、コンピューターによる自動データ収集プラグラムであるクローラーによるクリック数が激増。インターネット広告はほとんどをこのような不正クリックに遮られてしまい、人間に届きづらくなるという世の中になってきています。

このような流れを受け、日本においても、オンラインの被害は激増しています。たとえば、数年前にはほとんどなかったオンラインバンキングにおける不正送金の被害額が、2015年において年間約30億円となっています[4]。また、同年におけるクレジットカードを利用不正使用の被害額は120億円にものぼります[5]。

「サービス事業者とその利用者を結ぶ接点の多様化にともない、個人情報・金融資産の流出リスクが急増している」というのが現代のマクロ環境にあり、グローバル化が進む今、それは不可逆的な流れであります。その背景には、FinTechや人工知能といったテクノロジーの利便性を享受するのは、必ずしも正規のユーザーだけではないという事実があります。悪意のあるユーザーにも新たな攻撃のタネを与えている、というジレンマもあるのです。

このような事業環境の中、「不正なサービス利用の検知」を事業の軸として、当社は創業されました。その設立背景には、大きく私たちの3つの思いがあります。

  1. 単一認証技術の提供だけでは、お客様をお守りすることに限界がある
  2. 単一認証サービスでは、インターネット事業者とエンドユーザーの接点のすべてに対応しにくい
  3. 認証技術におけるマーケットに加え、不正アクセスの検知こそ、今後のIoT・ネットワーク化が進む社会に価値提供ができる

次回は、セキュリティサービス・プロバイダーとして何を目指すのか、その思いについて書かせていただきます。

参考:

[1] Evans, D. (2011). The Internet of Things. How the next evolution of Inetnet is changing everything. Cisco Internet Business Solutions Group (IBSG).

[2] Worldpay. (2016). Global Payments Report 2016

[3] Neal, A., Kouwenhoven, S., & SA, O. (2015). Quantifying online advertising fraud: Ad-click bots vs humans. tech. rep., Oxford Bio Chronometrics.

[4] 警察庁. (2016). 平成27年中のインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生状況等について https://www.npa.go.jp/cyber/pdf/H280303_banking.pdf

[5] 日本クレジット協会. (2016). クレジットカード不正使用被害の発生状況 http://www.j-credit.or.jp/information/statistics/download/toukei_03_g_160704.pdf