スマート化が進む日本の電力システム、サイバー攻撃への対策は?
1.サイバー攻撃のターゲットになりやすい電力システム
12月にも中旬に入り、冷え込みも厳しくなりました。家庭やオフィスに入ると、温かい環境にホッとします。もしこの季節、全ての電気供給が止まってしまったら……と考えると恐ろしいことですが、世界では実際にそのような事態が発生しています。ウクライナの首都キエフでは、2015年と2016年の2年連続で、寒さが厳しい12月、サイバー攻撃により大規模な停電に見舞われました。もちろん暖房器具だけでなく、全ての電気機器が停止。日常の生活や業務の遂行は難しくなり、交通機関などもストップします。サイバー攻撃により、都市の機能を麻痺させられることを世界に知らしめた恐らく最初の事例と言えるでしょう。
電力を狙ったサイバー攻撃は甚大な被害をもたらす脅威を秘め、力を誇示したいサイバー犯罪のターゲットとなりやすいという一面もあります。2012年のロンドン五輪では、開会式直前にサイバー攻撃の予告があり、実際に電力システムが攻撃を受け、一部のスイッチを手動に切り替えるというトラブルが起きています[1]。2020年の東京五輪は世界から大きな注目を浴びる一方、同様に世界中からサイバー攻撃のターゲットとなる可能性もあり、対策が急がれています。
2.電力システムの変革と高まるサイバーリスク
世界で電力を狙ったサイバー攻撃の脅威が増す中、日本で電力におけるサイバーセキュリティ対策が急がれているのには、もう1つ理由があります。それは、日本の電力システムが大きな変化の時を迎えているということです。
まず、各家庭に備わっている電力の計測器です。2014年から電気の使用量をリアルタイムで遠隔から計測できるスマートメーターへの切り替えが進んでいます。これまで人の目で一戸一戸針を確認していた従来型と比べ、大幅にコストを削減することが可能になりました。一方で、使用量を電力会社に知らせるための通信機能が備わったことにより、各家庭の計測器がサイバー網に繋がることになり、サイバーセキュリティ対策の必要性が高まっているのです。2024年までに、日本全国の計測器がスマートメーターに切り替わる予定で、全体で約7800万個の機器が新たにサイバー網と繋がることになります[2]。
また電力の自由化により、小売市場への新規参入が可能となりました。これにより多くの事業者が、電力業界に新たに参入しています。通常の企業運営同様に、プレーヤーが増えればそれだけ情報セキュリティの統制が難しくなり、一層の情報セキュリティ対策が求められます。
さらに今後、再生可能エネルギーの普及にあたり、電力の需要量と供給量を自動で最適化できるスマートグリッドが大きな役割を果たすと考えられており、整備が進んでいくことも予想されます。電力を取り巻く通信網は、これまでになく拡大しつつあります。
3.これからの電力を守る情報セキュリティ
電力システムがサイバー攻撃の被害にあった場合、ウクライナの例のように、電気の供給を妨害されたり、データの改ざんにより過剰な電力の供給が行われたりする危険性も考えられ、生活や命さえも脅かす事態になりかねません。
経済産業省の資源エネルギー庁は今年7月、「電力・ガス分野におけるサイバーセキュリティ対策」をまとめ、各事業者における情報セキュリティの向上やチェック体制強化から、諸外国との連携、サイバーセキュリティ人材の育成まで幅広い対策を推進しています[3]。
電力システムが大きく変わりゆく今、消費者の利便性向上と同時に、安心して暮らせる情報セキュリティの確保が求められています。
(文/星野みゆき 画像/© Sashkin – Fotolia)
参考:
[1] C, Hughes. (2013). Cyber “blackout” attack on the London 2012 Olympics revealed. Millor
http://www.mirror.co.uk/news/uk-news/cyber-blackout-attack-london-olympics-2039257
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004668/011_03_00.pdf [3] 経済産業省. (2017). 電力・ガス分野におけるサイバーセキュリティ対策
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/denryoku_gas_kihon/pdf/004_07_01.pdf