ブロックチェーンのビジネス活用、金融業界から幅広い分野へ
1. 大きな可能性を秘めた「ブロックチェーン」
中央銀行をはじめとする、従来型の管理機関を必要としないビットコインをはじめとする仮想通貨。この仕組みを可能にしているのが「ブロックチェーン」という技術です。「分散(型)台帳」とも呼ばれ、一定時間ごとのデータを一つのブロックとして、それを新たに生成されたブロックとチェーンのようにつないで保管していきます。データを改変するには、世界中からコンピューターを集めても足りないほどの莫大なコンピューティング・パワーが必要とされており、実質的に不可能と言われています。この記録を共通の台帳として、ブロックチェーン・ネットワークを支える複数のコンピューターで保管・管理することで、高い信頼性と透明性を確保します。中央集権的な管理者を必要としないため、管理コスト削減効果も期待されています。
2. 金融業界がリードする技術の活用
これら多くのメリットをもたらす可能性を秘めたブロックチェーンは、今幅広い分野から注目を集めています。英国の調査機関が400人の企業創業者、経営者、管理職、IT専門職を対象に行った調査によると、39%の企業がブロックチェーンの活用を検討、もしくは既に実装に向けて動いていると回答しています。さらに従業員が2万人以上の大企業に絞ると、実に56%の企業がブロックチェーンの活用に積極的であることが明らかになっています[3]。
いち早くブロックチェーンのビジネス活用を進めているのは金融業界です。欧米の金融機関では、早い段階から内部通貨の開発や、金融商品の自動売買システムの構築など、FinTech関連の研究開発が進んでいます。2015年9月には、英バークレイズや、米ゴールドマン・サックス、米JPモルガン、クレディ・スイスなど世界の大手銀行9行が共同で、ブロックチェーン技術の活用を検討・推進するコンソーシアムに加盟。米国発のスタートアップである「R3」が主導し、現在では世界100社以上が参加しており[4]、日本からも三菱UFJフィナンシャルグループやみずほ銀行、三井住友銀行、野村証券などがメンバーとなっています。
今月だけでも、三菱UFJフィナンシャルグループがオーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)やHSBCと共同でブロックチェーンを活用した顧客認証・検証システムの開発を行うという発表[5]や、富士通がメガバンク3行と、ブロックチェーンを使った個人間送金サービスの実証実験を実施する[6]とのニュースが伝えられるなど、国内外多くの金融機関が、競ってブロックチェーンの研究・開発を推進しています。
3. 幅広い分野へ広がる応用
さらに低コストで不特定多数の参加者が関わる取引データを記録・活用できるブロックチェーンは、流通分野からも熱い視線が集まります。日本ジビエ振興協会はジビエの流通を追跡確認するトレーサビリティのシステムにブロックチェーン技術を採用[7]。システムの開発・運用コスト削減が期待されています。
少し意外なところでは教育分野の事例も。ソニーは今年、ブロックチェーンを活用し、複数の教育機関のデータを一元的に管理し、信頼性の高い学習データの認証・共有・権限管理を可能にするシステムを開発したと発表しています[8]。
技術領域において、処理能力・スケーラビリティ・柔軟性といった面でまだまだ課題は多いものの、AI(人工知能)などと並び未来をつくる技術として期待が高まるブロックチェーン。今後、不動産や医療、エネルギーなどますます幅広い分野での活用が注目されます。
(文/星野みゆき 画像/© newb1 – Fotolia)
参考:
[1] 原隆. (2016).「世界を変える100の技術」. 日経BP社
https://venturebeat.com/2017/09/25/survey-shows-enterprise-interest-in-blockchain-is-heating-up/ [4] マイナビニュース (2017). SBIホールディングス、日本国内での分散台帳技術のトレーニングプログラム
http://news.mynavi.jp/news/2017/10/10/014/ [5] 日本経済新聞. (2017). シンガポールでMUFGなど3行がブロックチェーン活用で協力
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21881060U7A001C1FFE000/ [6] CNET Japan. (2017). 富士通、メガバンク3行とブロックチェーンを活用した個人間送金の実証実験
https://japan.cnet.com/article/35108525/ [7] PR TIMES. (2017). 日本初!ジビエ食肉流通トレーサビリティにmijinブロックチェーンを本採用
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000012906.html [8] ソニー株式会社. (2017). ブロックチェーン技術による教育データの認証・共有・権限管理システムを開発
https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201708/17-071/index.html