オリンピックに向けて進む、キャッシュレス化とセキュリティ課題
1. 増える訪日外国人客、2020年に向けて倍増を目指す
日本を訪れる外国人旅行者の数が急増しています。日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2016年の1年間に日本を訪れた外国人旅行者は年間で2,403万9千人、過去最高を記録しました[1]。さらに2017年4月には257万9千人の外国人旅行者が日本を訪れ、単月で初めて250万人を突破。月間最高人数を記録しています[2]。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに、観光庁は年間の訪日外国人の数を4千万人まで増やしたいとの目標を掲げており[3]、今後ますますの増加が予想されます。
2. 遅れをとる決済のグローバル化
外国人が訪れる観光地は、東京や大阪などの大都市だけはありません。日本の文化を楽しもうと、伝統が豊かに残る地方都市にも多くの観光客が訪れています。外国人旅行者を受け入れるためのグローバル化が日本全体で求められる中、大きな課題となっていることの1つが「お金」の問題です。よく知られている通り、米国を中心とする欧米諸国の多くでは、メインの決済手段としてクレジットカードやデビットカードなどのカード決済が選択されます。田舎の小さなお店でも水1本からカードで買うことが珍しいことではありません。また中国やインドといった成長著しい経済圏でも、E-Wallet(電子財布)を通じたキャッシュレス決済が国全体に普及しています。
実際にイプソスが今年、欧州13ヵ国と米国、オーストラリアを対象に行った調査によると、現金を使わないキャッシュレスの生活を望むとの回答が、欧州で34%、米国で38%に上りました。さらに、実際それに近い生活をしているとの回答も欧州で21%、米国で34%と3~5人に1人という高い割合でした[4]。また、eMarketerが実施した調査によると、中国では2016年時点でスマートフォンユーザーのおよそ半数、数にして2億人近くの人口がモバイルペイメントを利用しているという結果も[5]。キャッシュレス化に向けた動きは、世界共通のトレンドと言えそうです。
一方で、外国人向けの旅行サイトを覗けば、「日本では、キャッシュオンリーの店や宿泊先が大半なので現金が必須」といったアドバイスを今でも普通に目にすることになります。諸外国と比べてキャッシュレス化がなかなか進まない日本の現状を反映していると言えそうです。
3. 政府が推進するキャッシュレス化
日本でも交通系電子マネーの広い普及をきっかけに、現金を使わないカード決済の習慣が徐々に根付き始めているのも事実。しかし、まだまだ現金決済のみという店も多く、地域によっては「現金必須」が当たらずといえども遠からず…といった状況。またたとえカードが使用可でも表示が分かりにくいなど、キャッシュレス決済が当たり前の外国人にとって不便と言えるシーンが多いのは確かです。
そこで2014年から政府の関係省庁は、2020年に向け「キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上を図る」と謳い、訪日外国人の利便性向上に向けた方策を以下の通り打ち出しています。
(1)海外発行クレジットカード等での現金引き出しが可能なATMの普及
(2)クレジットカード等使用可能店舗での表示促進
(3)地方商店街や観光地等でのクレジットカード等決済端末の導入促進
(4)海外発行クレジットカード等での交通系カードの利用環境の整備
(5)百貨店における面前決済の一般化「キャッシュレス化に向けた方策」経済産業省より抜粋
また政府は、キャッシュレス化に伴い得られるビッグデータについても経済の活性につながると期待を寄せています。
4. キャッシュレス化に伴うセキュリティ課題
一方で、キャッシュレス化に向けた課題も見えてきています。例えば、クレジットカードの利用が増加することに伴い、クレジットカード周辺のデータがあらゆる場所でやり取りされることになります。加盟店が増えることで、セキュリティレベルにばらつきが出ることも予想され、クレジットカード情報や個人情報が不正取得されるリスクも考えられます。不正取得されたカードや情報が、偽造カードやなりすましに使用されることで被害が拡大する恐れもあるのです。
キャッシュレス化の推進とともに、こうした課題に関しても検討・対策してくことが欠かせません。次回は、このセキュリティ課題への対策を考えます。
(文/星野みゆき 画像/© Kenishirotie – Fotolia)
参考:
[1] 日本政府観光局. (2017). 2016 年 過去最高の2403万9千人 訪日外客数http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/170117_monthly.pdf [2] 日本政府観光局. (2017). 訪日外客数2017年4月推計値を発表
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/170519_monthly.pdf [3] 国土交通省観光庁. (2017). 訪日外国人旅行者の受入環境整備
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/ukeire.html [4] ロイター. (2017). 欧米回答者の3分の1超、キャッシュレス社会に前向き=調査
http://jp.reuters.com/article/global-economy-cash-idJPKBN17S0EG [5] eMarketer. (2016). China Boasts World’s Largest Proximity Mobile Payments Market
https://www.emarketer.com/Article/China-Boasts-Worlds-Largest-Proximity-Mobile-Payments-Market/1014053 [6] 経済産業省. (2014). キャッシュレス化に向けた方策
http://www.meti.go.jp/press/2014/12/20141226003/20141226003a.pdf [7] 経済産業省. (2016). クレジットカードの安全・安心な利用環境の整備に向けて
https://www.nisc.go.jp/conference/cs/ciip/dai07/pdf/07shiryou0602.pdf