
独自の厳しい法規制が多い金融業界においてITを活用する場合、常に高い安全性と安定性が求められます。そのため従来、各金融機関がそれぞれ、各種の規格や仕様を詳細に定め、堅牢なハードウェアとソフトウェアの設計を独自に行ってきました。これには膨大なコストがかかり、また長期的な使用を見据えた大掛かりな計画が必要でした。しかしフィンテックの隆盛により、新規サービスが次々と参入。周辺環境も刻々と変化する中で、金融機関にもその変化に柔軟に対応できるシステムの開発が求められるようになりました。
そこで注目される流れの1つが、クラウドの利用です。メガバンクを中心に、国内の金融機関でもシステムのクラウド移行が進んでいます。
ソニー銀行はいち早く2013年から、帳票管理やリスク管理、管理会計などの周辺系システムと開発環境の一部、そして一般社内業務システムを、Amazonの提供する「AWS(Amazon Web Services)」に段階的に移行。同行は2017年度末までには、移行可能な一般社内業務システムと銀行業務周辺系システムの移行をほぼ完了する予定としています[1]。
三菱東京UFJ銀行も今年の「AWS Summit Tokyo 2017」において、10以上のAWSサービスを利用して5つのシステムを本稼働しているほか、100以上のシステムをAWSに移行する計画であることを明かしています[2]。
三井住友銀行は2016年、モバイル端末の活用や、社内と外出先とのコミュニケーション円滑化、また組織を横断する作業の効率化などを目的に、マイクロソフトの複数のパブリッククラウドサービスを採用すると発表[3]。また今年3月には、日本総合研究所とともにIBMのパブリッククラウドを活用したデリバティブ信用リスクシステムを構築することを発表しています[4]。
各行がクラウドを利用することのメリットとして口を揃えるのは、コスト削減です。ソニー銀行のシステム企画部長はAWSのサイト上で、次のように述べています。
「導入後のコストに関しては、控えめに見積もってオンプレミス時代の 30% は軽減できています。試算時よりもストレージの容量などを少なく抑えることができているので、実際には50%以上の削減効果が得られていると思います。」[5]
また環境やニーズに合わせて、柔軟かつスピード感を持ってシステムを開発・調整できることも、オンプレミスと比べ大きな強みとなります。新たなサービスとの連携やアンバンドリング化といった流れにもスムーズに対応できます。さらに、いつどこからでもシステムにアクセスできるようになることで、従業員の業務を効率化できる等のメリットも挙げられています。
金融機関にとって課題であった情報セキュリティに関しても、金融業界の規制に準拠する高い情報セキュリティを備えたクラウドサービスが誕生したことで、銀行にとってもクラウドを取り入れやすい環境になっています。とはいえ、クラウドサービスを利用する以上、情報セキュリティについて高い意識を持ち続けることは恒常的な課題と言えます。サービス選定時に業界の基準に達する水準を確保することはもちろん、移行時さらには運用開始後のさまざまなリスクを把握し対策を講じる必要があります。アクセスが容易になる一方、適切な内部統制も必要です。システムの用途によって、プライベートクラウドとパブリッククラウドを使い分けること等も有効でしょう。
また複数のサービス間でデータのやり取りがスムーズに行えるかといった課題や、特定のサービス・技術に大きく依存してしまうベンダーロックインの問題も、クラウド化の課題として挙がっています。
銀行システムのクラウド化はまだ黎明期です。業界全体でノウハウを共有・蓄積し、クラウドのメリットを最大限に生かしていくことが望まれます。
(文/星野みゆき 画像/©everythingpossible – Fotolia)
参考:
[1] @IT. (2017). AWSへの移行開始から3年半、ソニー銀行の「節約大作戦」があらためて教えてくれること